西浦博(長崎大学熱帯医学研究所)

 

 このたびは、統計関連学会連合大会優秀報告賞をいただきまして、ありがとうございました。自分が最も面白いと感じる応用的研究を統計学専門の先生方に評価していただけたことは大変嬉しいですし、私にとって非常に大きな自信に繋がりました。感染症数理の恩師である広島大学の梯正之先生、英国の理論疫学指導者Roy Anderson先生、ドイツの数理疫学指導者Klaus Dietz先生と共同研究者Martin Eichner先生をはじめ、日頃よりご指導いただきお世話になっている全ての方々にこの機会を借りて深謝致します。

 本報告では、天然痘の歴史統計を利用してワクチン免疫の持続期間推定を行いました。これまでに収集した約9千編の天然痘流行記録の中から、ワクチン再接種や暴露後ワクチン接種が実施されていない下での流行データであることを絶対的な選定条件として、1900年前後の英国における年齢階級別・ワクチン接種歴別の感染者数を選択・利用しました。ワクチン接種歴別で見た感染者の年齢分布に見られる特異的免疫喪失パターンを定量化するために、2変量ポアソン計数データモデルを用いることによって免疫消失関数を与えるパラメータの最尤推定値を得ました。免疫持続期間の中央値は11.728.4年の範囲で推定され、天然痘根絶前に予防接種を受けた者は既に免疫を失った可能性が高いと考えられました。しかし、重症天然痘を回避する部分効果を別途で推定したところ、ワクチン接種後50年以上が経過しても50%以上の接種者は未だに部分免疫を保持している可能性が高いと期待されました。

 私は医学部を卒業したために、医学教育の中で短期的に教わる基礎的内容を除けば詳しい統計教育を経験したことがありません。そのため、統計学領域の学会や研究集会で発表する機会を与えていただいた際は、自分の推定モデルにおける技術的欠陥や妥当性に問題がある可能性について常に不安を感じています。しかし、感染症疫学データは様々な点で特異性が高いために余りにも面白く、同分野に応用的手法を提案する作業は私の研究における必須条件であると考えています。そのため、敢えて批判を浴びる目的で統計学領域の学会に演題を提出することを自身の勉強の機会にさせていただいています。特に、数理統計学の専門的研究が多い同大会で勉強できる機会は私にとって大変貴重な経験でした。自身が応用することの多い手法と余り関連が深くない内容は未だフォローすることさえ難しいのですが、何を学べば良いかを明らかにできましたし、何よりも非常に刺激的で有意義な時間を過ごすことができました。私は日本計量生物学会の会員ですので、同学会はもちろん連合大会を含めて今後も統計学領域の学会に参加させていただく予定です。応用的研究の内容を深く幅広くすることを心掛け、将来には学会発展にも貢献できる研究ができるよう努力して参ります。ぜひ、今後ともご指導いただけますよう宜しくお願い申し上げます。