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会長挨拶
会長就任のご挨拶
東京大学 教授・井元清哉

このたび、2026-2027年度の応用統計学会会長を拝命いたしました。長い歴史と伝統を有する本学会の運営に携わることとなり、その責任の重さを深く感じております。
応用統計学会は、約半世紀前に、「統計学を実社会で活かす」という理念のもと設立された学会です。現在、AI、データサイエンス、IoT、ゲノム医療、デジタルツイン、スマートファクトリーなど、データを基盤とする社会変革が急速に進む中、その理念はむしろこれまで以上に重要になっていると感じています。
現在、生成AIの急速な進展により、研究者の研究スタイルだけでなく、教育、論文執筆、査読、学会ネットワークのあり方そのものが大きく変わりつつあります。必要な情報の多くはオンラインから取得でき、研究成果の共有だけであれば、従来型の学会の存在意義は相対的に低下しているのかもしれません。
しかし、その一方で、社会全体が大量かつ複雑なデータに基づいて動くようになった現在、
「どのデータを信頼するのか」
「不確実性をどのように評価するのか」
「AIの出力をどう解釈するのか」
「意思決定をデータがどのように支えるのか」
という課題は、これまで以上に重要になっています。
これはまさに、統計学が本来担ってきた本質的な役割そのものです。
私は、応用統計学とは単なる解析技術をデータに適用するだけではなく、現実社会の複雑な課題に対し、不確実性を受け入れながら合理的な意思決定を支えるための知の基盤であると考えています。
例えば、製造業における品質管理や異常検知、情報通信分野における大規模データ解析、金融・物流・マーケティングにおける予測と最適化、さらには行政・政策形成におけるエビデンスベースドな意思決定など、応用統計学が果たすべき役割は社会全体へ広がっています。また、生命科学・医療分野においても、ゲノム医療や個別化医療の進展により、従来の枠組みを超えた膨大かつ多様なデータを統合的に扱う必要性が高まっています。まさに、リアルワールドデータ、マルチモーダルデータ、時系列データ、生成AIを用いた自然言語情報の構造化など、応用領域において統計学が果たすべき役割は急速に拡大しているのです。
また、近年では、生成AIに代表される情報処理技術の発展により、統計学と情報科学、数理科学、工学等との境界は急速に曖昧になっています。これは必然です。これからの応用統計学には、従来の専門分野の枠を超え、多様な応用領域を横断しながら、新しい価値を創出していくことが求められていると感じています。
私は、本学会を、単なる研究発表の場ではなく、大学、研究機関、企業、行政など、多様な立場の人々が集い、実社会の課題について議論し、統計学が貢献する新たな連携や共創が生まれる場へと発展させたいと考えています。
実際、現在の産業界では、
• AIをどのように安全かつ効果的に活用するか
• データ品質をどう担保するか
• 現場知とデータ駆動型意思決定をどう融合するか
• リアルワールドデータをどう活用するか
• 人材育成をどう進めるか
など、多くの課題が存在しています。
これらは単なる技術課題ではなく、広範囲な統計学的思考そのものが必要とされる課題です。
応用統計学会は、こうした産業界や行政の課題とも積極的に向き合い、企業等のステークホールダーとの対話や連携を深めながら、社会へ貢献できる学会を目指したいと考えています。
企業連携は単なる協賛獲得を目的とするものではありません。学術界と産業界が相互に学び合い、課題解決やより良い社会を目指した新しい研究テーマ、新しい方法論、研究成果の社会実装を共に生み出していくことが重要です。
また、若手研究者や実務家が自由に挑戦できる環境づくりも重視したいと思います。
現在、多くの若手研究者が、研究費、ポスト、教育負担、学会業務など、さまざまな課題に直面しています。本学会が、世代や所属を超えて率直な議論ができる、開かれた知的コミュニティとなることを期待しています。
さらに、学会運営そのものについても、持続可能性を重視したいと考えています。
人口減少・高齢化、研究環境の変化の中で、従来型の学会運営をそのまま維持することは難しくなっています。だからこそ、本学会も、「何を守るか」だけでなく、「何を変えるべきか」を真剣に考える必要があります。
私は、応用統計学会が、AI時代における新しい知的コミュニティとして、分野横断・産学連携・社会実装を推進する中心的存在となることを目指したいと思っています。
その実現のためには、理事、評議員、各委員会、会員の皆様、そして学会を支えてくださる多くの関係者のご協力が不可欠です。
長年培われてきた本学会の知的蓄積と伝統を基盤としながら、新しい時代にふさわしい応用統計学会を皆様と共に築いていきたいと思います。
今後とも、ご支援、ご協力を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。